top of page
アセット 1_2x.png

日時:2024年9月22日(日)13:30~16:00

会場:新潟日報メディアシップ2階 日報ホール

新潟日報みらい大学の2024年度第2回公開講座「伝統技術を届ける、広げる、伝える」を9月22日、新潟市中央区の新潟日報メディアシップで開催しました。会津漆器をプロデュースする「漆とロック」代表の貝沼航さんから基調講演をいただいた後、トークセッションでは伝統技術に込められた思いを発信する県内の「伝え手」が、持続可能なものづくりや、作り手や使い手との関わり方などについて意見を交わしました。

貝沼講演①.JPG
基調講演
『育てながら育てられてきた漆と私の15年~在りたい生き方を探して~』

講師/貝沼航さん

(「漆とロック」代表)

漆器通じて丁寧な暮らし

 縁もゆかりもない外から漆の世界に入り、魅力に感じたのは、漆という素材の尊さ、作り手のかっこよさ、人生を懸けたものづくりのすごさでした。でも、実際は作り手に入るお金が少ない。それをひっくり返したいと思ったのが、20代でこの世界に入って感じた純粋な思いでした。
 会津漆器の生産額はピークだった1988年頃の約7分の1に減っています。プラスチックに化学塗装をした製品の割合が増え、深刻な状況です。
 漆は人の肌に一番近い塗料と言われています。器を手に包み、口につけていただくのが日本人の食事の作法。食事を通じて丁寧に暮らしていくための器です。
 暮らしの中に迎え入れてもらえる器をちゃんと作りたいと思って始めたのが「めぐる」というブランドです。三つ重ねのおわんで、ご飯、みそ汁、おかずという、日本人の食の基本である一汁一菜が美しく整います。

貝沼講演.jpg

 手に持ち、口につけた感触が本当に心地良い。そんな器に導いてくれたのが「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」という、視覚障害がある方が活躍するソーシャルエンターテインメントでした。全盲の女性3人と職人が約2年かけ、唇と器の境目が分からなくなるような優しい口当たりや、持ちやすい形を追求しました。
 国産の漆は危機にひんしており、約97%は海外産に頼っています。「めぐる」は仕上げに国産漆を使い、売り上げの一部を漆の植栽活動に寄付する仕組みをつくっています。
 木地は樹齢100年ぐらいのトチの木を丸ごと無駄なく使います。「適量適速生産」を掲げ、1年間に300セットを受注生産。価格も、若い職人が仕事を続けられるような設定を目指しました。

貝沼講演③.JPG

 「めぐる」の器は届くまで大体「十月十日」かかります。途中、器が作られる様子をお便りでお知らせします。
 漆器の寿命は直せなくなるまで。15~20年で修理し、材料のトチの木が育つ100年間つないでいけたらと思います。器の修理は若い職人にとって勉強になります。自然と人の循環が長く巡るという思いを込めて、「めぐる」という器を作っています。

<かいぬま・わたる> 

1980年福島市生まれ。大学卒業後に祖父の出身地である会津に移住。漆器づくりの現場に魅せられ、会津漆器の作り手を応援する会社「漆とロック」を2005年に設立。産地ツアーや、漆器ブランド「めぐる」の立ち上げなど、会津地域を中心に漆器のコーディネーター・プロデューサーとして活動。国産漆の植栽活動にも取り組む。

トークセッション
『伝統技術を届ける、広げる、伝える』

パネリスト/

山田立さん(玉川堂番頭)

川越千紗子さん(タクミクラフト・アートコーディネーター)   

矢野容子さん(八海醸造「魚沼の里」企画室室長

貝沼航さん(漆とロック代表)

コーディネーター/

石原亜矢子 新潟日報社論説編集委員

ステージ風景.JPG

-まずは自己紹介を。

山田.JPG

山田さん)
200年の歴史がある玉川堂(燕市)で鎚起(ついき)銅器の営業をしています。実行委員会のオブザーバーを務める「燕三条工場の祭典」は、製作の現場をお客様に見てもらうイベント。他にも、通年で少人数のツアーをしたり、体験型のイベントをやったりと、世界中からいかに燕三条に足を運んでもらうのかということを考えています。

川越.JPG

川越さん)
 ウェブサイトや展示会を通じて、新潟の伝統工芸を発信する活動をしています。関西出身で、新潟の工芸と出合い、種類の多さと面白さ、そのすごさが知られていないことに驚いたことがきっかけでした。面白さを一緒に伝えていきたいという思いで始め、消費者の目線や立場に近い形で活動しています。

矢野.JPG

矢野さん) 
秋田県に生まれ、岐阜で陶磁器を学び、八海醸造に勤めたのを機に新潟に移住しました。製造施設と飲食店などが集まった「魚沼の里」(南魚沼市)や、ニセコ蒸留所(北海道)の運営に携わっています。施設では、食事を楽しくする道具を扱おうと雑貨店を営業。長く使える、飽きないものをコンセプトに、職人の方々のこだわりや人柄をお客さまに伝えられるよう意識しています。

-今後、やりたいこと、工夫したいと思うことは。

山田さん)

 燕三条地域では連携ができるようになってきましたが、幅を広げて、新潟県内でどれだけ連携できるかが次の課題。現代の生活の中で工芸品をどこで誰が使うのか、常に考えてブラッシュアップしていくことも必要だと考えています。

川越さん)

 これまで工芸と縁のない人や若者への導入として、ウェブを中心に活動していますが、実際に使ったり、職人と話をしたりする機会をもっとつくり出せるような方法を考えていきたい。例えば、工芸品を一定期間借りて使うようなサービスなど、無理のない範囲で今の方々が工芸に触れる機会を考えられたらいいと思っています。

矢野さん)

作り手の世界観を大事にしたいと思っています。一方で今の時代と合っていないように感じる部分があったとき、どうにかしたいと思う気持ちとともに、おせっかいではないかという気持ちもあります。未来があまり明るくなく感じるときはどうしたらいいのだろうと思うときがあります。

-これからの物と人の在り方はどうあるべきか伺いたい。

山田さん)

 残された技術を、次にバトンタッチできるようにしたいと思っています。売れないといけないけれど、売れればいいのかというと、そういうことでもないのが難しい。愛着のある物を、壊れたら修理して長く使っていくということを、みんながちょっとずつ意識すると変わってくるような気がします。

川越さん)

 子育てをしていると、工芸品のような高価な物や貴重な物を生活に取り入れることはとても大変だと感じます。それでも、無理なく取り入れられるような良い物が生活の中にある暮らしをしていきたい。その感覚を多くの人と共有できたらうれしいですね。

矢野さん)

 現代は物があふれ、おいしいものがどこでも食べられます。工芸品も生活必需品というよりは嗜好(しこう)品ですよね。生きる上ではいらないものだという考え方もあるけれど、日常に潤いが出ることは生きる上で大切なこと。それを実感してもらえる場面を作りたいです。

トークセッション質問.jpg

伝統工芸の活性化策について、会場からも意見が上がりました。

展示

 会場では、漆とロック株式会社が企画・運営・販売する会津で誕生した漆器ブランド「めぐる」の展示も行われました。禅の修行で使われる器に範を取った三つ組椀「水平」「日月」や漆のさじ「めぐるの匙」などの商品について、国産の漆を使い、会津の職人たちが正統な技法で製作していることを代表の貝沼航さんが説明。来場者は実際に「めぐる」の漆器を手に取りながら、優しい肌触りや軽さ、安心する温もりを感じていました。

来場者の声

貝沼さんは漆器について突き詰めて考え、哲学を持って販売していてすごいなと思った。登壇者からエネルギーを感じた。「伝統」と考えすぎてしまうからこそ、冒険ができない部分があるのかもしれないと感じた。

来場者の声

原料の供給や製品の循環などをコーディネートする役割が必要だと気付かされた。製品を作って届けるだけでなく、まずは知ってもらい、作っている所を実際に見てもらい、実際に触ってもらうことも大事だと思った。

bottom of page