
日時:2024年4月13日(土)13:30~16:00
会場:新潟日報メディアシップ2階 日報ホール
新潟日報みらい大学の2024年度第1回公開講座「にいがた 暮らしと伝統のものづくり」を4月13日(土)、新潟市中央区の新潟日報メディアシップで開催しました。エッセイストで「暮しの手帖」元編集長の松浦弥太郎さんから「くらしともの」をテーマに基調講演をいただいた後、トークセッション「伝統のルーツを振り返り、未来を探る」では、県内の伝統技術の担い手4人が登壇、歴史や展望などについて意見を交わしました。

基調講演
『くらしともの』
講師/松浦弥太郎さん
(エッセイスト、「暮しの手帖」元編集長)
手作りを使う心地よさ
小学3~6年生の頃、夏は毎年、家族で妙高高原の知人の農家で過ごしました。大きくておいしいお煎餅など、新潟にはたくさんの思い出があります。
2006年、「暮しの手帖」の編集長に就きました。発行は年6回。読者の皆さまへ1年に6通の手紙を届ける気持ちで一生懸命働きました。NHK連続テレビ小説「とと姉ちゃん」のモデルになった創業者の大橋鎮子さんは、90歳になっても毎日出社されていました。
どんなに忙しくても皆で3時におやつをいただくのがルールで、その中でいろいろな話をしました。大橋さんはよく「美しい物というのは役に立つ物なんだ」とおっしゃった。困っている人を助ける。それが美しい物だと。

「手作りの物には必ず命がある。それを見つけなさい」とも教えられました。作り手が一番心を込めた場所に命は宿る。例えばコーヒーカップだったら縁の部分。口をつけた時に心地いいな、ちょうどいいなと思うかどうか。心を込めて作られた物は、すなわち作り手の「親切の結晶」です。物の命に気付くと、使うたびに幸せになれます。作り手の思いがわれわれに届いて交流できるのです。
ノートや鉛筆を置きっ放しにすると、大橋さんに「もの言わぬ物こそ大切に丁寧に扱いなさい」と言われました。簡単に捨てな い、雑に扱わない、壊れたら直す、清潔にする。正しい方法で使うことも、もの言わぬ物との付き合い方だと。
僕はずっと「丁寧な暮らし」について、自分のライフスタイルの中で解釈して言語化したり、話をしたりしてきました。丁寧な暮らしのキーワードの一つは親切です。例えば、お客さまを迎える時、家の人が庭のクロモジをつまようじとして丁寧にナイフで削り出し、お茶とお菓子に添えて出すような、精いっぱいの親切とおもてなし。日本の丁寧なものづくりの原点もここにあるのではないかと感じます。

作る人がささげてくれた物に対して、使う人はその命や工夫、精いっぱいの親切を見極めて感謝していただく。それを自分の中に取り込んで、さらに良いものにして、世の中にお返しする。われわれはこの関係性をこれからも育てていかなければならないと思います。
<まつうら・やたろう>
1965年、東京都生まれ。エッセイスト、クリエィティブディレクター。「おいしい健康」取締役。2003年にセレクトブック書店「COWBOOKS」を都内でオープン。06~15年に「暮しの手帖」編集長を務めた。
トークセッション
『伝統のルーツを振り返り、未来を探る』
パネリスト/
水沼 樹さん(諏訪田製作所営業部チーフ)
池野 律子さん(池野漆工芸塗師)
足立 照久さん(足立茂久商店11代目)
藤岡 修さん(越後亀紺屋藤岡染工場代表)
コーディネーター/
石原亜矢子 新潟日報社論説編集委員

-まずは自己紹介から

水沼さん)
山口県出身で新潟に来て9年目になります。三条のものづくりのルーツを探り、地域の方々から話を聞いてきました。今日はみんなで共有したいです。

池野さん)
村上市に生まれて、跡取り娘として村上木彫堆朱(ついしゅ)の家業を継ぎ、伝統工芸士になりました。漆の素晴らしさ、面白さに魅了されています。

足立さん)
22歳で大学を卒業してすぐ長岡市寺泊の実家に入り、曲げ物を作って28年目です。父の下について12年。そこから今日まで続けてきた話をしたいと思います。

藤岡さん)
阿賀野市にある藤岡染工場の8代目です。「新潟手ぬぐい」の制作や、酒蔵とのコラボ企画などもしています。
-それぞれの歴史やルーツについて
水沼さん)
三条のものづくりは江戸時代、農民たちが副業的に鍛冶をやったのが始まりとされています。作った和くぎは江戸で家を建てるために使われました。三条商人が全国から情報を集め、職人と一緒にニーズに応えてきた歴史があります。
池野さん)
村上木彫堆朱は諸説ありますが、室町時代に京都の方から技術者が来たのを源とし、江戸時代には藩士が江戸で技術を覚え、村上に広めました。1955(昭和30)年に県無形文化財、76(昭和51)年には国の伝統的工芸品に指定されました。
足立さん)
ふるい、裏ごし、せいろといった曲げ物を作っていますが、長岡市寺泊の自宅には江戸時代にはすでに組合があったとの記録が残っています。県の伝統工芸品で、市の無形文化財にもなっています。
藤岡さん)
創業は1748年。糸染めから始まり、布の上から染料をかける「注染(ちゅうせん)」、はけで布に染料を塗っていく「引染(ひきぞめ)」、布に染料を浸して染め上げる「浸染(しんぜん)」の三つの技法を用いています。注染の技法は県の伝統工芸品にも認定されています。















-未来に向けての挑戦や課題、今後の暮らしとものの在り方について
水沼さん)
諏訪田製作所はいつでも工場を見学ができます。作り手と使い手が近づいたら面白い。職場環境も整備しながら、職業選択の一つになるようにしたいです。多くの人に気軽に工場に遊びにきてもらって、交流を深めていきたいです。
池野さん)
堆朱組合では大学生やデザイナーのアイデアを商品化するなどして好評です。自分自身が欲しいものを作り使っています。また展示会や修学旅行の体験会も行い知名度を上げています。製品を使う人の幸せを考えながら、頑張っていきたいです。
足立さん)
小国和紙を使った照明器具なども作ってみました。電子レンジで使えるわっぱは、テレビでも紹介されました。後継者がおらず、作り方や修理法を記録して残す取り組みもしています。この仕事が必要とされる限り頑張っていきたいです。
藤岡さん)
長岡造形大学の学生と作った手ぬぐいの錦鯉のデザインなどが人気です。帽子やブックカバーも作り、時代に合わせたものをと考えています。小学生や園児の体験学習も行っています。見学も受け入れており、今後も続けていきたいと思います。

7月開催「城下町村上 堆朱巡り」に向けて
トークセッション終了後、長岡造形大学の吉川賢一郎准教授と村上堆朱事業協同組合の小杉和也代表理事らが登壇し、7月13日(土)に村上市で開催するみらい大学フィールドワーク「城下町 村上 堆朱巡り」について来場者に向けて参加を呼びかけていただきました。
ホワイエでは伝統工芸品の展示も
第1回公開講座に合わせ、日報ホールのホワイエでは県内伝統工芸品の展示も行われました。
来場者の声
「暮しの手帖」はずっと読んでいた。自分の時間をこれからどう使うか考えている今、丁寧な暮らしについて、松浦さんの話をじかに聞けて良かった。県内で生まれる「用の美」を、広く知ってもらいたいと思った。
来場者の声
基調講演では、作られたものはどうやって使う人の役に立つかが大事だと再認識した。同時に生活スタイルが多様化し、伝統を守りながらも新しい取り組みも大事だと感じた。